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家族

現実は冷たい

先日、母親が医者に呼び出された。

俺の父親はもうだめらしい。

医者は事あるごとに「リスク、リスク」と口にして治療法がないことを遠回しに伝えてきたそうだ。

俺が「死ぬんか?」と聞いたら、「そうじゃない。でももうだめだね」と母親は言った。

一生の殆どを一緒に過ごしてきた人間が病に蝕まれていくってどんな気持ちなんだろう…

 

父の病が母の夢を打ち砕いた

両親はお互い退職してからしばらくは、旅行なんかに行って楽しんでたみたいだ。

「コレが楽しみだった」って母親が言ってたのを思い出す。

しかし、しばらくして父親の体調が悪化。肝硬変やら糖尿病やらリウマチやら。

それからは家で2人でのんびり暮らしてた。

うちの親は仲悪くはないからそれも穏やかでいい日々だったんではないのかな?と思うんだけどどうなんだろ?

ちなみに父親は今67。死ぬにはまだ全然若いし、今すぐ死ぬわけではないのだけど、でも現状としては期間を言われない余命宣告をうけたようなもんで。

肝硬変やら糖尿病だけの頃はまだ良かった。俺の息子と一日中楽しそうに遊んでたり、近くのテーマパークにいったりしてた。

腹水が貯まるようになってからだな。どうにもならなくなってきたのは。

 

俺と親の関係

俺の家は裕福じゃなかった。飯は食えるけど贅沢はさせてもらえないレベル。よりさらに下。

両親共働きで、家族旅行とかいくわけでもなく淡々と過ごす日々。

小学校くらいまでは家族で遊んでたりしてた記憶あるけど、中学くらいからは案の定会話もなし。顔を合わせれば喧嘩。狭い家で怒鳴り声が響きまくってた。

父親の胸ぐらを掴んだことも一回だけあった。なぜか掴んだ瞬間泣いたのを憶えてる。あの涙はなんだったんだろ?

そして、二十歳過ぎてしばらくして俺は家を出た。

そっからは葬式やなんかで年に数回会うだけの時間が何年もあって今に至る。

俺と父親は仲が良くも悪くもない。お互い照れくさいというか反抗期の時の関係のままズルズル来てしまって、反抗心なんかとっくにないのにじっくり話すことも全然ない。

俺の息子のおふざけを通して同じことで笑ったりはするけど、2人で酒飲んだこともないし、2人でどっか行ったこともない。きっとこれからもないだろう。

でも、こういう状況になるとさすがに考えてしまう。

このまま父親が死んだら、俺は何もしてやれなかったって後悔しないだろうか、って。

昔父親がボソッと言ったことがずっと頭の片隅にある。

それは「死ぬ前にもう一回行ってみたい場所」の話。

なんか岡山に美術館があるらしく、「あそこはほんとによかった。死ぬ前にもう一回行きたいなぁ」と言っていた。

でも今調べたら岡山に美術館21件もあるやんけ。どれかわからんわ。笑

というかもうそんな遠いとこ行ける体じゃないから連れて行きたくても無理だけど。

少し前に一緒にニュースを見ていてこんな会話もあった。

その日は、キチガイが事件起こしたり、変態が捕まったりとかそんなニュースばっかりだった。

「よかったなぁ、俺はまともに育って」

俺は半分冗談半分本気の軽い気持ちで言ったんだが、思わぬ返事が返ってきた。

「どこがだ!そんな体中に墨入れやがって!どこがまともだ!」

冗談かと思って父親の顔見たらマジ顔だった。目が点になったね。墨入れて何年経ってると思ってんだよ。笑

それに俺はタトゥーだらけだが、人として恥じない生き方はしてきたつもり。

タトゥーごときで「まともじゃない」っていう見方をする連中を逆に軽蔑するくらいなんだけど、まさか父親がそっち側だったとは。笑

でも全然平気だったよ。考え方の違いだなって思っただけ。

まあ、「自慢の息子だれな」ぐらい言ってくれれば悪い気しなかったけどね。

でもしゃあない。そもそも自慢できるようなこと何にもしてきてないし、心配と迷惑ばっかかけたのは自信ある。笑

あ、でも昔父親の会社の人に「お前の親父さん、会社でお前のことすげー楽しそうに話すんだぞ」ってこっそり言われたことがあった。

父親は家じゃそんな素振り1ミリも出さなかったから、なんか嬉しかったな。

 

それにしてもこれからどうなるんだろ

入退院の繰り返し、家じゃ寝たきり、治療法もない、だからといってすぐ死ぬわけでもない。

父親からしたら地獄だよね。

せめてもと思って、父親は俺の息子のことが大好きだから「連れてきてやろうか?」って聞いたけど、「遊ぶ体力がない」って言われた。

母親に聞いた話じゃ、俺が送ってあげる息子の写メやムビーを見てニヤニヤしてるらしい。ほんとは遊びたいんだろうな…

 

今の心境

正直俺の中で悲しいとか、今すぐ親孝行しなきゃ、とかそういった感情はあまり湧いてこない。死がまだ遠いとこにあると思ってんだろうね。

ただ最近、可哀想だなっていう感情は常に湧いてでてくる。

病気になったこともそうだけど、「必死こいて働いてきて退職して数年でこれかよ…」っていうのがね。2人で旅行行きまくるのが夢だった母親の気持ちとかもそうだし…

必死に生きてきて、2人子供育てあげて、やっと落ち着いたと思ったら父親が寝たきり。母親はガン。

2人揃って完全復活なんて奇跡は起こらないだろうし。

あ~あ、冗談きついわ。

 

元気なうちに気付けばよかった

 

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